連環画 【中国の昔の漫画】

連環画

連環画とは

連環画とは20世紀初頭から20世紀後半にかけて、中国で人気を集めた一種の漫画・絵本のことです。ストーリーに沿って絵が描かれ、その上や下に文章が書かれ、会話の部分が吹き出しになっています。漫画的な絵本、絵本的な漫画です。

「連環」の意味

こうした漫画・絵本を「連環画」と呼ぶ意味ですが、「連環」とは「連続してつながった」を意味し、要するに「連続した絵が描かれた本」ということになります。「連環画」はまた「小人書」とも呼ばれます。これは本の大きさが小さいこと、また一般に子供向けの本だからと言われます。

日本の漫画との比較

連環画の大きさは一般にタテ10センチ、ヨコ10数センチで100ページ前後。ポケットでもハンドバックでも楽に入る大きさです。日本の漫画とは逆に左綴じで、左からページを繰って右に進んでいきます。

色については日本の漫画と同じで、ほとんどの場合、表紙以外はモノクロ印刷になっています。ただし日本の漫画と違って、1ページに通常は1コマ、多くても2コマとなっているため、やや絵本に近い体裁です。

日本の漫画はアシスタントや原作者がいる場合はあっても、基本的に1人の作者が描きますが、連環画は複数人が描くことも多いです。特に数十巻に及ぶ歴史ものなどは必ずと言っていいほど複数の作者によって作られています。ここら辺はアメリカンコミックに近い形態ですね。

有名な連環画

では有名な連環画をいくつか紹介していきましょう。

(1)『三国演義』

連環画と言えばなんといっても三国志(三国演義)でしょう。日本人にもおなじみの劉備・関羽・張飛・諸葛亮・曹操、などが出てきます。いろんな出版社が出していますが、60巻前後ものが売れ筋のようです。中国で購入すると60巻で3000円くらいからあるようですが、日本の中国語書店が輸入しているものだと安くても1万円前後していますね。三国志を知っている中国語学習者の方にはおすすめです。

(2)『水滸伝』

水滸伝も日本でゲームなどになっているので知っている人は多いのではないでしょうか。108人の豪傑たちの話です。こちらも巻数・価格ともに三国志と同じくらいです。

(3)『西遊記』

これもおなじみの孫悟空・三蔵法師たちの物語ですね。10巻くらいのものから60巻くらいのものまであります。価格はやはり中国で数千円です。

(4)『紅楼夢』

『紅楼夢』は中国での知名度は上3つと同じくらいなのですが、日本ではそこまで知られていません。女性が主人公となっており、上3つとは違って戦いの話ではありません。中国では20巻前後くらいのものが2000円くらいから売っているようです。

(5)故事中国の神話をテーマにしたもの

上記4つの長編の連環画と違い、嫦娥の話花木蘭織姫と彦星の話、などの民間伝承をもとにした連環画。30巻くらいのセットになっているものや、個別の物があります。個別の物は中国だと200円くらいから売ってたりします。

あとは海外の有名な話を連環画にしたものや、オリジナルのもの、中国共産党のプロパガンダ作品などがあります。

連環画はどのように読まれたか

連環画は30年代以降、貸本屋で子供たちなどに貸し出されて読まれました。子供たちはわずかなお金で本を借りると店先に座り込んで読みふけりました。日本でも昭和の中期ごろまで貸本屋の漫画が子供たちに流行っていましたが、それと似ています。こうした姿は新中国成立後の1980年代あたりまで見ることができました。

連環画はなぜ廃れたか

中国の子供や大人まで夢中にさせた連環画は80年代以降、急速に廃れていきます。これはこの時期から中国でテレビが普及し始め、子供たちが日本のマンガやアニメに夢中になっていったことによります。子供たちの娯楽は連環画から日本のマンガに取って代わられたのです。これ以降連環画が人気を盛り返すことはありませんでした。

現在連環画は一種の懐古ブームのような形で豪華なものが販売されたりしていますが、幅広く読まれることはなくなりました。

連環画はなぜ発展性を持たなかったのか

連環画の歴史を振り返ると、20世紀前半から何度もその内容の古さ、レベルの低さに批判の声が挙がっています。このことは日本のマンガがかつて教育者や親世代から何度も批判されたことを思い起こさせます。マンガを読むことはかつてはほめられた行為ではありませんでした。それから数十年経ち、日本のマンガは世界の子供たちや若者の心をとらえ、リオ・オリンピックでは8分間の次期オリンピック開催国デモンストレーション映像に、日本文化を代表するものとしていくつものマンガが取り上げられ大きな反響を呼びました。今やマンガの背景を味わうために「聖地巡礼」として日本にやってくる外国人もいるようです。マンガは日本の一大文化になりました。

これを思うと、同様に子供たちの心をとらえた中国の連環画がなぜ発展できなかったのかを思わずにいられません。

連環画がすたれた原因

連環画がその成長を止めてしまった原因としては、日本以外のアジア諸国のほぼすべてがそうなのですが、日本の漫画の海賊版が広まったという点があるでしょう。著作権料を支払わずに日本の漫画を勝手に翻訳して出版すれば元手があまりかからないので、(海賊版)出版社にとってはおいしいビジネスになります。日本の漫画はクオリティが高かったため、子供たちが日本の海賊版の漫画を読んでしまい、連環画はあまり読まれなくなりました。

また、表現規制の問題もあります。

連環画がその成長を止めてしまった別の原因として考えられるのは、新中国になって以来、連環画が中国共産党の洗脳の道具になったということです。日本の場合は批判を受けながらも親世代の道徳の洗脳の道具になることはありませんでした。放っておいてもらえたのです。そのことで戦後世代以降の日本の子供たちは想像の羽を伸ばし、自由自在に描いていくことができた、何でもありの世界を縦横に創り上げていけました。

連環画の衰退と日本のマンガの発展の違いは、想像力と創造力に自由が不可欠であることを如実に表していると思います。

外国人にとっての連環画の価値

連環画は成長を止めましたが、外国人にとって、特に中国語を学ぶ外国人にとって連環画は教材の宝庫です。なにしろ絵がある。こういう時中国人はどういう仕草をするのか、この時代中国人はどういう衣装をまとっていたのか、どんな家具に囲まれて暮らしていたのか、中国を学ぶための不可欠の要素が一目瞭然なのです。

しかもストーリーはいくぶん書き言葉ですから、学ぶに難しい四文字成語的なものが次々に繰り出されます。ストーリーに夢中になっていると、そうした言葉が難なく理解でき、中国語のリズムが体に残るのです。

連環画はどこで買うか

連環画は今でも買うことができます。中国の本屋さんに行けば児童書のコーナーにいろいろな連環画が置いてあります。また古物市などが町のどこかで常設されていますから、そういうところに行けば連環画コーナーがあります。粗悪本も多く、やや分厚いものですと描いている人が途中で変わるようで、主人公の顔立ちが変わってしまったりするのですが、それも旅のお土産としてはご愛敬です。

また、日本国内でも中国語の書籍を取り扱っている書店では、昔の歴史物語や故事成語など、何かしらの連環画は置いてあると思います。

『紅楼夢』や『水滸伝』など古典小説には手が出なくても、連環画なら気軽に楽しく読むことができ、中国語中級から上級者向けにお勧めの勉強法です。